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O.R.メリング
O.R. Melling

妖精シリーズ
The Chronicles of Faerie

妖精王の月  夏の王

 ▼メモ ▼作品リスト

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妖精王の月
The Hunter's Moon 1993年

And that's why I love them. But you have to keep in mind, they are not like us.
だからこそ、あたしは妖精が好き。でも、妖精があたしたちと違うことは忘れないで。(引用)

O.R.メリングの『妖精王の月』 原題『The Hunter's Moon』 1993年
『The Chronicles of Faerie』シリーズ四部作の第一作です。

シリーズは『夏の王』『光をはこぶ娘』『夢の書』とつづきますが、この『妖精王の月』一冊だけでも物語としては完結しています。
邦訳はすべて講談社から井辻朱美:訳、こみねゆら:表紙画ででています。

あらすじ:
十六歳の少女、フィンダファーとグウェニヴァーはいとこ同士。こどものころから妖精を信じていて、彼らを探しにアイルランドを旅することにします。ふたりは無謀にも妖精の塚山で一晩明かすことに…。そのためにフィンダファーは妖精にさらわれてしまいます。
とりのこされたグウェンは、フィンダファーを取り戻すため妖精たちに立ち向かいます。でも当のフィンダファーは妖精王にすっかり夢中で…?

現実のアイルランドを舞台にした物語です。
主人公のグウェンは、ファンタジーに憧れつつも、本当に超自然な目にあうことは望んでいない、妖精界よりも現実世界を選ぶ女の子。でも、いやおうなしに現実と非現実がまざりあい、なにが夢かもわからない状況においこまれたり、ごく当たり前に妖精のことを信じている人たちとの出会いによって、また、そういう人たちが普通の現代的な暮らしをしていることによって、現実と非現実とを切り離すのではなく共存する術を得てゆきます。
ロマンティックな妖精との恋物語を軸に、少女の成長を描く物語。

■アメリカ版■

メリングはアイルランド生まれのカナダ育ち。作家としてのデビューもカナダです。
邦訳の元となっている原書もおそらくはカナダ版かと思いますが、アメリカ版もでています。現在(2008年)日本で入手しやすいのはアメリカの「Amulet Books」版ですが、邦訳と読み比べてみると、内容が少し違います。

たとえば、エンヤやクラナドのポスターが部屋にはってあったり、ロビンフッドの映画の話をしていたようなところが、映画ロード・オブ・ザ・リングの話になっていたり、手紙でやりとりしていた、の部分が手紙とメールで…、など、時代にあわせて変えてあったり、最初にヒッチハイクしてた場面がバスに乗るに変えてあったりなど。

また、ことあるごとに主人公のグウェンが、「アメリカ人じゃなくてカナダ人!」と主張してたのが消えていますし、アメリカ人批判みたいなところはだいぶ薄められています。(グウェンはカナダではなくアメリカに住んでいることになっています)

本文に引用されている詩などもいくつか変更されています。
あと、ネタバレになるので詳しくは書けませんが、最後のエピソードもシチュエーションが少し変えられています。

(2008年8月)
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夏の王
The Summer King 1999年

But ... do you think a person who has died could stay around for a while? Or maybe go somewhere else besides heaven or hell?
でも、人の魂はしばらく地上に残っていると思わない? というか、天国か地獄以外の場所へも行くんじゃない?(引用)
O.R.メリングの「夏の王」、原題「The Summer King」(1999年)
「妖精王の月」につづく「The Chronicles of Faerie」シリーズの二作目です。
といっても、「妖精王の月」に登場した人物は顔見せていどの登場で、ほとんど物語には関わってきませんので、前作を読んでいなくても大丈夫かと。
邦訳は講談社から井辻朱美:訳。こみねゆら :表紙画

あらすじ:
今回の主役は、ローレル・ブラックバーンという少女。双子の妹が残した日記を手がかりに、妖精たちと関わりをもちます。ローレルの妹のオナーは、妖精たちからある使命を与えられ、それを果たす途中で命をおとしました。その使命を、ローレルに代わりに果たしてほしいというのです。夏の王をさがしだす、それが与えられた使命でした。今年は妖精島のハイ・ブラシルが七年に一度姿をあらわす特別な年にあたり、夏至祭の前夜、ハイ・ブラシルに夏の王が火をともさなければ、この世界と妖精の世界は永遠に引き裂かれてしまうのです…

アメリカ版は加筆がかなりされています。大筋は変わっていませんが、細かいエピソードが増えたり削られたりセリフが変えられたりしています。

→通販ページへ(洋書)

(2008年8月)
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■メモ■

◇妖精王の月◇

フィンダファー Findabhair

フィンダファー Findabhair というのは、O.R.メリングの娘さんの名前でもあるそうです。ケルト神話、クー・フリンのでてくる、「クーリーの牛争い」に登場する、コナハトのメイヴ女王の娘の名前と同じなので、もしかするとそこからとっているのかもしれません。
「find」(白い)と、「siabair」(幻)から成っている名前だそうで、ウェールズ語のグウェニヴァー Gwenhwyfar と同じだそうです。
作中では「White Lady」という意味だと説明されています。白い貴婦人。

(参考:創元社「ケルト事典」ベルンハルト・マイヤー)

グウェニヴァー Gwenhwyfar

ネタバレになるのであまり書けませんけど、「妖精王の月」を最初に読んだとき、なんでエクスカリバーが出てくるんだろう…と思ったのですが、よく考えてみればグウェニヴァーといえばその恋人はアーサー王にきまってました…。エクスカリバーはアーサー王の剣、グウェニヴァーはアーサー王妃の名前です。

ワイルド夫人 「アイルランドの古代伝説」

ワイルド夫人ワイルド夫人 Lady Wilde(1821-1896)は、オスカー・ワイルド(Oscar Wilde)のお母さんで、アイルランドの国粋主義者。W・B・イェイツ(William Butler Yates)などとも親交のあった人。

「妖精王の月」では、ワイルド夫人の「Lady Wilde's Ancient Legends of Ireland(アイルランドの古代伝説)」(1888年)からの引用があるのですけど、エピソードもワイルド夫人の著作を元にしているものがいくつかあるんじゃないかという気がします。
ワイルド夫人の「アイルランドの古代伝説」は、英語だと→こちらのサイトさんで読めます。

角の生えた女たち The Horned Women

「妖精王の月」で、おばばの家に角が生えた魔女がやってくるあたりは、ワイルド夫人の「The Horned Women(角の生えた女たち)」からではないかと。

花嫁エッヘナ Ethna The Bride

ワイルド夫人の「アイルランドの古代伝説」には、フィンヴァラ(Finvarra)やミディール(Midir)が登場する話もあります。たとえば、「花嫁エッヘナ Ethna The Bride」はフィンヴァラが人間の王の花嫁をさらう話です。人間の王が妖精の国から花嫁を取り戻したあとも、ピンがささっていて花嫁は眠りつづけている、といったあたりは、「妖精王の月」でグウェンが妖精の投げ矢(fairy dart)に当たって動けなくなったあたりのエピソードとも被る気がします。

(参考:冨山房「妖精事典」キャサリン・ブリッグズ)

盗まれた子供 The Stolen Child

Where dips the rocky highland
Of Sleuth Wood in the lake,
There lies a leafy island
Where flapping herons wake
The drowsy water-rats;
There we've hid our faery vats,
Full of berries
And of reddest stolen chetries.

※Come away, O human child!
To the waters and the wild
With a faery, hand in hand,
For the world's morefull of weeping than you can understand.

Where the wave of moonlight glosses
The dim grey sands with light,
Far off by furthest Rosses
We foot it all the night,
Weaving olden dances,
Mingling hands and mingling glances
Till the moon has taken flight;
To and fro we leap
And chase the frothy bubbles,
While the world is full of troubles
And is anxious in its sleep.

※くりかえし

Where the wandering water gushes
From the hills above Glen-Car,.
In pools among the rushes
That scarce could bathe a star,
We seek for slumbering trout
And whispering in their ears
Give them unquiet dreams;
Leaning softly out
From ferns that drop their tears
Over the young streams.

※くりかえし

Away with us he's going,
The solemn-eyed:
He'll hear no more the lowing
Of the calves on the warm hillside
Or the kettle on the hob
Sing peace into his breast,
Or see the brown mice bob
Round and round the oatmeal-chest.
For be comes, the human child,
To the waters and the wild
With a faery, hand in hand,
from a world more full of weeping than you.

W・B・イエイツの有名な詩。緑色の部分が「妖精王の月」に引用されている部分です。また「夏の王」のアメリカ版のエピローグにも引用されてます。

エンヤ Enya と クラナド Clannad

フィンダファーの部屋のポスター、エンヤとクラナドはアイルランドのミュージシャン。エンヤはソロで、クラナドは、エンヤの兄妹のグループ。エンヤのお姉さん、モイヤ・ブレナンがボーカルです(モイヤはソロアルバムもあります。モイア・ブレナンと表記されることもあります)。クラナドにはエンヤが参加してたこともあります。いわゆるケルト系とよばれる音楽ですが、トラッド(伝統音楽)ではなく、シンセと多重録音を組み合わせたニューミュージック系です。
アメリカ版では、フィンダファーは「Folk フォーク。民族音楽」は嫌い、ということが特に強調され、しかし妖精の国に行ったことで、フォークの才能(歌の才能)を与えられたことになっています。

◇夏の王◇

フィンタンとエーケイルの年古りたタカの伝承

物語の重要な舞台になるアキル島の伝説で、本文中に言及されている、十五世紀の「ファーモイの書」の中にでてくる「フィンタンとエーケイルの年古りたタカの伝承(The Colloquy between Fintan and the Hawk of Achill)」は、ゲール語だと→こちらのサイトさんで読めます。

ハイ・ブラシル Hy Brasil

七年に一度姿をあらわすハイ・ブラシル(Hy Brasil )に関しては、ピーター・トレメインの「アイルランド幻想」でも題材にした短編があります。そちらでは不吉な死者の島という側面が強くだされています。

グルアガッハ Gruagach

カナダ版の原書をもっていないのでなんともいえないのですが、邦訳だと「グルアガッハ」となっている妖精が、アメリカ版では「Fia Fia Caw」となっています。これは英語化したつづりで、ゲール語では「Fir Fiacha(Dubh)」、英語で「Raven Men」という意味。Raven はワタリガラスや大烏のこと。
「グルアガッハ」のほうは、水とつながりのある妖精で、びしょ濡れで人の家を訪ねては、火のそばで体を乾かしたいと頼む習性があるんだそうです。この「グルアガッハ」とよく似た妖精に「Fir Dhearga(フィル・イァルガ)」というのがいて、そちらは「赤い男」という意味。
「Fir Fiacha(Dubh)」の「Dubh」はゲール語で「黒い」という意味のようなので、こちらは「黒い男」という意味…?

(参考:冨山房「妖精事典」キャサリン・ブリッグズ)

アルタン Altan

アイルランドの人気音楽グループ。トラッド系。

ランリグ Runrig

スコットランドの音楽グループ。「Faileas Air An Airigh」という曲の歌詞がアメリカ版では引用されています。

■ローレルの祖父の蔵書■
ローレルのおじいさんの蔵書の場面で出てくる本

ブライアン・フロウドの妖精画集 Faeries

ブライアン・フロウド(Brian Froud)の『妖精画集』。アラン・リー(Alan Lee)との合作です。原題『Faeries』。
邦訳はサンリオから「フェアリー」というタイトルででていました。→詳しくはこちら

ロバート・カーク 「エルフ、フォーン、妖精たちの伝承」

ロバート・カーク牧師(Reverend Robert Kirk)著
原題「The Secret Commonwealth: Of Elves, Fauns, and Fairies」
邦訳は、国書刊行会の「英国ロマン派幻想集」というアンソロジーのなかに、「秘密の共和国」荒俣宏:訳 が収録されているようです。
英語ですと、→こちらのサイトさん で読めます。

エヴァンツ・ヴェンツ 「ケルト地方の妖精信仰」

エヴァンツ・ヴェンツ W. Y. Evans-Wentz(1878-1865)著
原題「The Fairy Faith in Celtic Countries」
英語ですと、→こちらのサイトさん で読めます。

真夏の夜の夢 A Midsummer Night's Dream

シェイクスピアの劇。「真夏の夜の夢」、または「夏の夜の夢」というタイトルが一般的です。(左の画像はアーサー・ラッカム挿絵の本。洋書です)
原題の「Midsummer」は「夏至」のこと。なので、日本人がイメージする「真夏」とはちょっと違うようです。「Midsummer Night」は、夏至前夜のこと。キリスト教の教会暦では6月24日が聖ヨハネの日となっており、それが夏至祭となっています。
メリングの「夏の王」も「夏至」のお話。夏至の前の夜は妖精にとって特別だということも語られます。
「真夏の夜の夢」は、英語だと→こちらのサイトさんで読めます。
日本語だと→こちらのサイトさんで、小説化したものの訳が読めます。

ワイルド夫人 「アイルランドの古代伝説」

英語だと→こちらのサイトさんで読めます。

正直トマス True Thomas

フランシス・ジェイムズ・チャイルド Francis James Child(1825-1896)が収集したバラッド集の37番。英語ですと→こちらのサイトさんで読めます。
アメリカ版ですと「正直トマス(True Thomas)」に関する叙述はなくて、かわりに「タム・リン(Tam Lin)」のことが、ギリシャ神話の「オルフェウス(Orpheus)」と一緒に、名前だけがちょっとだけ出てきます。タム・リンは、チャイルドのバラッド集の39番。英語ですと→こちらのサイトさんで読めます。

ケルトの神話と伝説

この本はアメリカ版ではでてきません。ですので、著者も原題も不明…

マイケル・スコット 「アイルランドの神話と伝説」

原題「Irish Myths and Legends」(1992年)

マイケル・スコット(Michael Scott)はアイルランドの作家。
「錬金術師ニコラ・フラメル」シリーズの作者。

P・J・リンチ 「キャットキン」

P・J・リンチ(P.J.Lynch)絵、Antonia Barber:文の絵本。
「キャットキン」
原題「Catkin」(1994年)
アメリカ版ではこの本はでてきませんが、「キャットキン」という話に関する、あらすじのようなものはでてきます。

■アメリカ版で加えられている本■

ジョゼフ・キャンベル 「神の仮面」

ジョゼフ・キャンベル Joseph Campbell(1904-1987)
「神の仮面」(原題「The Masks of God」)
アメリカの神話学者の著名な本。「Primitive Mythology」「Oriental Mythology」「Occidental Mythology」「Creative Mythology」の全四作。そのうち、「Occidental Mythology」は邦訳がでてます。
青土社、山室静:訳。「神の仮面―西洋神話の構造」上下巻

パメラ・トラバース 「What the Bees Know」

「What the Bees Know : Reflections on Myth, Symbol and Story 」(1989年)

著者のパメラ・トラバース Pamela Lyndon Travers(1899-1996)は、メアリー・ポピンズの作者です。

Dr. James Hollis 「Tracking the God」

James Hollis著
「Tracking the God: The Place of Myth in Modern Life」(1995)
詳細はよくわかりませんが、「Jungian psychology」とあるので、ユング心理学関連の本?

ジェイムズ・スティーヴンズ 「小人たちの黄金」

James Stephens (1882-1950)著
原題「The Crock of Gold」
邦訳は、晶文社、横山貞子:訳
英語ですと→Project Gutenbergで読めます。

J・R・R・トールキン 「On Fairy Tales」

「指輪物語」の作者、トールキンのエッセイ。「On Fairy Tales(妖精物語について/妖精物語とは何か)」(1964年)
邦訳は、ちくま文庫「妖精物語の国へ」杉山洋子:訳
評論社「妖精物語について - ファンタジーの世界」猪熊葉子:訳
などの本に収録されています。
英語版ではローレルの祖父は、このエッセイから好きな言葉として
Behind the fantasy, real will and powers exist independent of the minds and purposes of men.(引用)
という一文をあげています。
■作品リスト■
タイトル 備考
1983 The Druid's Tune
ドルイドの歌
講談社/井辻朱美
1984 The Singing Stone
歌う石
講談社/井辻朱美
1989 Falling Out of Time 一般向け
1993 The Hunter's Moon
妖精王の月
妖精シリーズ1
講談社/井辻朱美
1996 My Blue Country
1999 The Summer King
夏の王
妖精シリーズ2
講談社/井辻朱美
2001 The Lightbearer's Daughter
光をはこぶ娘
妖精シリーズ3
講談社/井辻朱美
2003 The Book of Dreams
夢の書
妖精シリーズ4
講談社/井辻朱美

■参考文献■

「妖精事典」( A Dictionary of Fairies) 富山房
キャサリン・ブリッグズ(Katharine Briggs):編著
平野 敬一 三宅 忠明 井村 君江 吉田 新一 :訳
英国の女性筆者による、英国、ケルトの妖精たちの事典。

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「ケルト事典」(Lexikon der keltischen Religion und Kultur)
ベルンハルト・マイヤー Bernhard Maier:著
創元社 平島直一郎 :訳 鶴岡真弓:監修
ドイツ人のケルト学の学者による事典です。

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