デイルマーク王国史
Dalemark Quartet
詩人たちの旅
Cart and Cwidder
I sing for Osfameron, I move in more than one world.
われはオスファメロンのために歌うものなり、わが旅する世界はひとつにあらず(引用)
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「詩人たちの旅」
デイルマーク王国史、四部作の第一作です。
原題「Cart and Cwidder」1975年
邦訳は東京創元社 田村美佐子:訳 カバー絵:山野辺若
あらすじ
馬車で旅をしながら、歌をうたい楽器を奏でる詩人(うたびと)クレネン一家。モリルはその末の息子。本名は、タナモリル・オスファメロン。伝説の吟遊詩人の名前をもらっています。
ある日、キアランという少年が、客として馬車に同乗し、一家とともに旅をすることに。
さまざまな事件が起こり、モリルは父親から、強い魔法の力をもった楽器を譲り受けます。モリルになら、必ずやその力を使いこなすことができるだろうからと…
私は、どうしようか迷ったすえ「牢の中の貴婦人」を先に読んだのですが、先に読まないほうが良かったかな〜と、ちょっと後悔。
「牢の〜」を先に読んでしまったために、謎の少年の正体が最初っから想像がついてしまいました…。
「牢の〜」の方の世界の設定と、このデイルマークでは、似てはいますけれど細かい違いがあるので、あっちのキヤルタンと、こっちのキアランは、必ずしも同一人物ではないのでしょうけど。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品のなかでは、かなりストレートに、ファンタジーらしいファンタジーといいますか、わかりやすく、読みやすいです。
四部作ですが、これ一冊でも、きれいに完結しています。
牢の中の貴婦人
The True State of Affairs
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「牢の中の貴婦人」 原題「The True State of Affairs」
邦訳は東京創元社から文庫で出ています。訳:原島文世 カバーイラスト:佐竹美保
児童向けではなく、一般向けに書かれたもので、中編です。
デイルマーク王国史シリーズではないのですが、その原型のような作品。
執筆の正確な時期は不明なのですが、1960年代半ばにはエージェントに送ったとの記述があるとのことで、デビュー作である「Change Over」(1970年)よりも以前の作品になります。
原文は、1995年に出版された「Everard's Ride」という短編集と、1996年に発売された「Minor Arcana」という短編集に収録されています。
「Minor Arcana」はUK(英国)版のみの発売で、これのUS(アメリカ)版にあたる「Believing is Seeing: Seven
Stories」には「牢の〜」は収録されておらず、かわりに「Enna Hittims 二センチの勇者たち」が入って七編となっています。
ただ、どちらの短編集も現在では入手が困難のようでして、原文は読めず、この作品は邦訳だけ読みました。
牢に閉じ込められた王が娘に恋をするという、スコットランド王ジェームズ1世(1394年-1437年)の詩、「The Kingis Quair」(王の書、とか、王の詩集とか…邦題はこれと決まった題はないようです)を、娘のがわから見たらどうだろうという発想のもとに書かれた物語なんだそうですが、必ずしもジェームズ1世や、その当時のイングランドや世界の情勢などを厳密にモデルにした、という作品ではないようです。
大きくわけて南と北で戦争していて、北は農奴解放…など、設定としてはアメリカの南北戦争の方が近いような気もしました。
■メモ■
なにものにも縛られぬ真実 Unbounded truth
「牢の中の貴婦人」P83に出てくるアスグリムがヒルダにあてて書いた、『抑制なき真実とは、で始まる詩と、
時にも場所にも縛られぬもの』
デイルマーク王国史1巻のP175でキアランが歌った、
『なにものにも縛られぬ真実はは、なんとなく同一のものに思われます。「牢の中の貴婦人」とデイルマークでは訳者さんが違うので、違う訳になってるだけかなあと、そんな気がします。
時にうずもれることも、ひとところに囚われることもない―』
Unbounded truth is not a thing
Cramped to time and bound in place―
「牢の〜」のほうの原書は持っていないので、原文で確認することができないのが残念ですが…。
王の書 The Kingis Quair
「牢の中の貴婦人」の創作のもとになった作品。英語ですと→こちらのサイトさんで読めます。