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ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
Diana Wynne Jones

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■長編■

And Falleyfell is a kingdom out in the bay. So dangerous is it that he who sees it is as good as dead.
……ファレーフェルは海のかなたにある国。それはそれは危険なところでな。ひと目見たが最後、死んだも同然(引用)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「海駆ける騎士の伝説」(原題:Everard's Ride)

あらすじ:
物語の舞台は英国、ヴィクトリア女王の時代(在位1837年〜1901年)。小作農から身を起こしたアレックスの父親は、鉄道の株で財産を築き、没落貴族のコーシー家から城つきの島を買い取ります。そこは幽霊が出るとのうわさでした。アレックスは上流階級の子供たちとのつきあいは苦痛と感じていましたが、父親はコーシー家の子供たちと仲良くしろといいます。
ある年、クリスマス休暇の前、アレックスが姉のセシリアとすごしていると、騎士の格好をした若者があらわれて…?

この作品が本の形となって発表されたのは1995年ですが、実際に書かれたのは1966年、作者がまだ作家デビューする以前のこと。自分の楽しみのためだけに書いた6つの長い作品のうちの、最後の1作だったということです。(ほかの五つは処分してしまったとのこと)
不思議な島を舞台にした冒険譚で、騎士道物語…アーサー王の世界を思わせるような味わい。ストーリーもシンプルです。それでもこの作品には、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品の原型のようなものがいっぱいつまってるような感じがしました。
この作品から読むのもよし、ほかの代表的な作品を読んでから、それらの作品を生み出すにいたるまでには、どんな作品を書いて腕をみがいていたのか知るのも面白いかと思います。

邦訳は、徳間書店から野口絵美:訳、佐竹美保:絵で出ています。

魔法!魔法!魔法!
洋書:
「海駆ける騎士の伝説 Everard's Ride」は、洋書ですと「Unexpected Magic」という短編集に収録されています。この本の他の短編の邦訳は、「魔法!魔法!魔法!」というタイトルで、別の一冊にまとめられています。
(2008年7月)
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ウィルキンズの歯と呪いの魔法
Wilkins' Tooth / Witch's Business

ウィルキンズの歯と呪いの魔法

but the fact remains that we've done a bad act disguised as a good one.
それでも、いいことに見せかけて悪いことをしているという事実は変わらないのよ。(引用)

「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」(1973年)
原題は、原書の英国版は「Wilkins' Tooth」、アメリカ版は改題されていて「Witch's Business」というタイトルです。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズのデビュー作は「Changeover」という一般向けの作品で、その次に刊行された、はじめての児童向けの作品が、この一冊。
邦訳は、早川書房、原島文世:訳 佐竹美保:絵

あらすじ:
椅子を壊してしまったために、お小遣いを止められてしまったジェスとフランクの姉弟は、お金ほしさに、誰かのかわりに「仕返し」をして報酬をもらう、「仕返し有限会社」をはじめます。しかし、どういうわけか仕事を請ければ請けるほど、もうかるどころか、借金が増えるありさま。いじめっこに仕返しをしてやるつもりが、いじめっこの手先になったり、本物の魔女…そもそも、お金をもらって誰かのかわりに誰かを痛い目にあわせるなんてことは本来は魔女の仕事…にも関わることになり、事態はどんどんのっぴきならない状況に…!

作中に「Nine Men's Morris(九人のモリス)」というゲームのことを魔女が口にする場面があるのですけど、それは「Mill (ミル・水車小屋)」とも呼ばれているボードゲームのようです。魔女に呪われているアダムズ一家に水車小屋があるのは、それと関係があるように思います。
「九人のモリス」は、ふたりのプレイヤーがそれぞれ九つの石を使うゲームで、自分の石を三つ一列に並べることができると相手の石をひとつ取ることができ、相手の石を二つにまで減らしたら勝ち、というものです。

この物語は、「九人のモリス」を実際の人間を駒にして行っているような感じがします。
魔女のビディさんが敵側のプレイヤー、主人公側のプレイヤーはジェスに「秘密兵器」をくれる女の人かと思います(ビディさんと同じく「魔女」で、駒(ある男の人)を奪いあって対立する存在です)
ビディさんのあやつる九つの駒は、いじめっこのバスターたち九人。
主人公側は、主人公たちとその仲間が駒。ジェスとフランク、ヴァーノンとサイラス、マーティン、フランキーとジェニーとその父親と叔母さん、の九人かと思います。最初は主人公側のゲームが負けていて、どんどん魔女に駒を取られて(魔法にかけられて操られたり、病気になったり)しまうけれど…?

■洋書■
左が英国版、右がアメリカ版です

(2008年7月)
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"It's just us - not trying to understand you." "The same goes for me,"
「こっちのせいなんだよ − どういう人かちゃんとわかろうとしなかったからさ」「それはこちらも同じことだ」(引用)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「うちの一階には鬼がいる!」、原題「The Ogre Downstairs」(1974年)

あらすじ
キャスパーとジョニーとグウィニーの三兄妹は、母親が再婚したことで、継父のジャックと、その息子のダグラスとマルコム兄弟と、ひとつ屋根の下に暮らすことになります。継父は怖くていやなやつで、ダグラスは乱暴でいやなやつで、マルコムはイヤミでいやなやつ!
三人は継父のことをひそかに「鬼」と呼びます。その鬼が、ある日、化学実験セットを買ってくれたのですが、そのセットにはとんでもない薬品がまざっていて…?

空を飛んだり、人の中身が入れ替わったり、透明になったり。てんやわんやの大騒動が楽しいユーモアファンタジー。

子供たちから「鬼 (原文は「ogre」。オーガー、人食い巨人)」と呼ばれている父親の名前がジャック(Jack)なのも面白いです。
ジャックと豆の木では、ジャックが豆の木をのぼって人食い巨人(ogre)の城にいき、宝物を盗んで、最後には巨人を殺します。この物語では、鬼のほうが下から二階や三階の子供部屋にのぼってくるわけで、逆転しているのですが、しかし鬼とよばれている父親の立場、視点からしてみると、行儀が悪い、ひどいいたずらばかりする、いうことをきかない、うそをつく、心配ばかりかける…そんな子供たちのほうが「悪い鬼」に思えていることだろうなあと思います。つまり、お互いがお互いのことを「相手が悪い」と考えてる状態なのですが、そこには誤解…相手のことをよく知らないせい、知ろうとしなかったせい…もあるのではないか、といったことに、トラブルを通して気づいていくあたりも読みどころ。

邦訳は東京創元社、原島文世:訳、佐竹美保:画。挿絵もかなりあるので、佐竹美保さんの絵が好きな方ならそちらの面でも楽しめるかと。

(2008年9月)
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I was grateful, until you all started going on at me.
感謝してたさ。あんたたちがよってたかってがみがみ言いはじめるまでは。(引用)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「ぼくとルークの一週間と一日」、原題「Eight Days of Luke」(1975年)
邦訳は東京創元社から大友香奈子:訳、佐竹美保:絵で出ています。

あらすじ
両親がいなくて、親戚の世話になっているデイヴィッドにとって、家に帰らなくてはならない休暇は憂鬱なものでした。おじさんもおばさんも、その息子も、その息子の嫁も、みんなデイヴィッドに「感謝」を要求しますが、いくらデイヴィッドが感謝の言葉を口にしてもそれを信じようとしませんし、けっきょくのところ、デイヴィッドのために何かしてやるのがいやでたまらないだけなのです。邪魔にされ、よってたかって攻撃されることにうんざりしたデイヴィッドは、親戚たちを呪ってやろうと、でたらめな言葉をとなえます。すると塀がくずれ…。炎をあやつる不思議な少年、ルークがあらわれます。

少々ネタバレになりますけど、北欧神話を題材にした作品です。
英語の一週間の曜日名の多くは、北欧神話の神さまの名前からきていて、そのあたりが関係してきます。
北欧神話を知っていることを前提に書かれている部分が大きいのですが、邦訳の著者や訳者あとがきでいろいろと、「これは…こういうことです」といった説明が丁寧にされていますので、北欧神話をまったく知らなくても楽しめるかと思います。

(2008年9月)
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Where there's need enough, a way can often be found
ほんとうに必要なら、なにかしら道は見つかるものですよ(引用)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「星空から来た犬」、原題「Dogsbody」(1975年)

邦訳は早川書房から原島文世:訳、佐竹美保:絵で出ています。

あらすじ
天狼星こと、おおいぬ座のシリウスは、無実の罪から地球の犬となって、失われたゾイの探索を命じられます。
犬になったシリウスは、キャスリーンという女の子に拾われます。アイルランドとイングランドの摩擦が激しい時代で、アイルランド人であるキャスリーンは、イングランドの親戚の家で肩身の狭い思いをしながら暮らしていました。
特に意地悪なおばは、キャスリーンのこともシリウスのことも大嫌い!
ことあるごとに「処分」をちらつかせて脅します。
家にはネコたちもいて、シリウスを追いだそうと画策するのですが…?

ダイアナさんの作品にはネコが多く登場するのですけど、犬がたくさん出てくるものは珍しいです。ラストは少し哀切ですけど、全体的にはユーモアがたっぷり散りばめられていて、ネコたちと協力しあったり、自分とそっくりな犬の兄弟たちと駆け回るすがたも微笑ましくて、犬好きやネコ好きの方にはおすすめ。

地下の国の王であるアラウンが登場し、赤い耳で純白の毛並みの猟犬たちを、シリウスみたいだとキャスリーンが言う場面で引用されているのは、ウェールズの神話「マビノギオン」の最初の話、「ダヴェドの大公プイス」からのものだと思います。
→マビノギオンについて詳しくはこちら
(2008年10月)
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■短編■

魔法!魔法!魔法!
Unexpected Magic/Stopping for a Spell

魔法!魔法!魔法!

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの短編集、「魔法!魔法!魔法!」
徳間書店、野口絵美:訳、佐竹美保・絵
内容は、ファンタジーの他、SFも何作かあります。また、作者が自分の九歳のころの思い出について語ったエッセイなども収録。全十八篇。

■収録作■

1975 アンガス・フリントを追い出したのは、だれ?
Who Got Rid of Angus Flint?
1989 オオカミの棲む森
The Master
1979 ビー伯母さんとお出かけ
Auntie Bea's Day Out
1989 ぼろ椅子のボス
Chair Person
1979 ピンクのふわふわキノコ
The Fluffy Pink Toadstool
1990 コーヒーと宇宙船
Nad and Dan Adn Quaffy
1980 四人のおばあちゃん
The Four Grannies
1990 お日様に恋した乙女
The Girl Who Loved the Sun
1984 クジャクがいっぱい
The Plague of Peacocks
1993 魔法ネコから聞いたお話
What the Cat Told Me
1984 カラザーズは不思議なステッキ
Carruthers
1995 でぶ魔法使い
The Fat Wizard
1984 ダレモイナイ
No One
1996 緑の魔石
The Green Stone
1984 第八世界、ドラゴン保護区
Dragon Reserve, Home Eight
1998 ジョーンズって娘
The Girl Jones
1987 二センチの勇者たち
Enna Hittims
2003 ちびネコ姫トゥーランドット
Little Dot

ネコの一人称で語られる「魔法ネコから聞いたお話」や、たくさんのネコたちがでてくる「ちびネコ姫トゥーランドット」は、ネコたちへの愛情がにじみでていて、読んでいて楽しかったです。ほかには「でぶ魔法使い」や「第八世界、ドラゴン保護区」、「緑の魔石」などは、これから長い物語がはじまるんじゃないかというようなわくわく感があって好きです。

「ダレモイナイ」は、「No. One(ナンバー1)」と「no one(誰も…ない)」をかけた、言葉遊びの楽しいおはなし。「No One」というのは高性能ロボットの名前。そこに「someone(誰か)」という超自然の存在が絡むのもおもしろいです。この物語に登場する男の子、エドワードには先祖から受け継いだコーシー Coursy の名前があるのですけど、「海駆ける騎士の伝説」に出てくるコーシー家と関連がありそうです。

魔法!魔法!魔法! 「Unexpected Magic : Collected Stories」。この短編集のうち、「海駆ける騎士の伝説(Everard's Ride)」をのぞいた残りの十五作の短編が「魔法!魔法!魔法!」に訳されて収録されています。

→通販ページへ(洋書)

魔法!魔法!魔法! 「アンガス・フリントを追い出したのは、だれ?(Who Got Rid of Angus Flint?)」「四人のおばあちゃん(The Four Grannies)」「ぼろ椅子のボス(Chair Person)」の三作が収録された「Stopping for a Spell」という短編集。この三作の訳も「魔法!魔法!魔法!」に収録されています。

→通販ページへ(洋書)

■メモ■
「魔法!魔法!魔法!」に収録されている短編で、別訳があるものもあります。
※「ダレモイナイ(No One)」は、てらいんく「ネバーランドvol.2」に「イナイ」というタイトルで岸野あき恵:訳のものが掲載されています。この巻はダイアナ・ウィン・ジョーンズが特集されています。
※「ちびネコ姫トゥーランドット(Little Dot)」は東京創元社「ミステリーズ!vol.07」に「リトル・ドット」というタイトルで大友香奈子:訳のものが掲載されています。
(2008年7月)
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メモ

▼ウィルキンズの歯と呪いの魔法 ▼うちの一階には鬼がいる!
▼ぼくとルークの一週間と一日 ▼星空から来た犬

以下ネタバレを含みますのでご注意ください

ウィルキンズの歯と呪いの魔法

九人のモリス Nine Men's Morris

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ふたりで対戦します。それぞれが駒を九つ持ち、交互に置いていきます。
置いた駒を一コマずつ動かすこともできます。
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駒が三つ並ぶと「ミル」とよばれます。
相手の駒をひとつ取ることができます。ただし「ミル」からは取ることはできません。
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残り三つになったら、ひとマスずつではなく、好きな位置へ駒を動かすことができるようになります。

相手が身動きできなくなる(駒を動かす場所がなくなる)か、
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相手の数が二つになったら勝ちです。

長靴をはいた猫 Puss in Boots

ウォルター・クレーン 「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」のラストは、 「長靴をはいた猫」のラストが生かされてます。猫が人食い鬼(オーガー)に対して、「どんなものにも変身できるそうですが、ライオンや象みたいな大きなものにも変身できますか」、とまず尋ねます。
人食い鬼がライオンや象に変身してみせると、今度は、「でも、ネズミのような小さいものに変身するのは無理でしょう」と疑うそぶりをみせて、鬼をあおります。
ウォルター・クレーン 人食い鬼がネズミに変身してみせると、それをつかまえて食べてしまいます。

「長靴をはいた猫」は→青空文庫さんで無料で読めます。

仕返し有限会社 Own Back Ltd.

「仕返し有限会社 Own Back Ltd.」という発想は、ロアルド・ダールの「"復讐するは我にあり”会社 Vengeance Is Mine Inc.」(早川文庫「王女マメーリア」所収)をちょっと思いだします。
「Vengeance 復讐・仕返し」という単語では、「Heaven's vengeance is slow but sure 天罰は遅くとも必ず来る・天網恢恢疎にして漏らさず」という諺があるみたいなんですけど、「ウィルキンズの歯と呪いの魔法」も、ある意味そういう物語です。

うちの一階には鬼がいる!

ジャックと豆の木 Jack and the Beanstalk

「うちの一階には鬼がいる!」は、「ジャックと豆の木」を下敷きにしているところがかなりあるように思います。
アーサー・ラッカム母親に牝牛を売ってくるようにいわれたジャックは、「魔法の豆」と牝牛を交換してしまいます。怒った母親は豆を窓の外になげすててしまいますが、豆は一晩でどんどんのび、その木をのぼったジャックは巨人の城にたどりつきます。
(物語との共通点:ジャックは母親とふたり暮らし。母子家庭であり貧乏な点、ジャックがあまり良い子じゃなくて、ちょっとおバカな点、母親にいつも悲しい顔をさせていて、ついには母親を怒らせてしまうこと、食べるものが豆(ベイクトビーンズ)しかなくなってしまうこと、また牝牛のがらくたが高く売れることなど…)
アーサー・ラッカム巨人の奥さんは優しく、ジャックをかくまってくれます。巨人がやってきて、「人間のにおいがする」と言いますが、うまくごまかしてくれます。
巨人が眠ってしまうと、ジャックは「金の卵をうむニワトリ」を盗んで逃げます。それからしばらくすると、ジャックはまた巨人の城をおとずれ、こんどは「金と銀のつまった袋」を盗んで逃げます。

(母親のサリーは優しく、鬼(父親)から子供たちをかばってくれること、子供たちのしたことで母親が鬼に責められること、ニワトリの脚の置物が黄金に変わること、魔法の化学実験セットのせいで「くさいにおい」がすること、鬼が「悪事のにおい」をかぎつけるのが得意なこと、子供たちが鬼の書斎からパイプを盗むこと、鬼が大食漢なこと、すごいいびきをかくこと、鬼が子供たちの部屋を点検することなど…)

アーサー・ラッカム 三度目にジャックは、「ひとりでに鳴りだすハープ」を盗みますが、ハープの音で巨人が起きてしまいます。
巨人はジャックをおいかけますが、ジャックは地面にたどりつくと斧で豆の木をきりたおし、巨人は落ちて死んでしまいます。

(鬼を途中で起こして怒られること、音楽をかけて鬼を怒らせること、鬼を殺そうとすること、お金持ちになってめでたしめでたしで終わることなど…)

ジャックと豆の木の物語は→青空文庫さんで読めます。上記のイラストはアーサー・ラッカムの「English Fairy Tales」より。

三人の東方の王(東方の三博士) The Three Magi

James Tissot

聖書でキリストに贈り物をしたとされる三人の東方の王(東方の三博士)、カスパール(Casper)、バルタザール(Balthazar)、メルキオール(Melchior)。
「うちの一階〜」では、キャスパー(Casper)の名前が、そのカスパールからとった名前…というか、同じ名前なので、マルコムはジョニーのことをバルタザール、グウィニーのことをメルキオールと呼んでからかいます。邦訳だと「サル」とよばれた(バルタザールだから)と勘違いしている場面は、原文ですと「bald ハゲ」と勘違いしてます。

「東方の三博士」は、英語だと「Magi」。「Magi」という単語は、賢者、といった意味のほかに、「魔法使い」といった意味があります。
で、作中に登場する化学セットは、「魔術舎 Magicraft」の製品。
東方の三博士がイエス・キリストに贈ったのは、「黄金、乳香・没薬(もつやく)」の三つとされているようです。「魔法生成化学 Magicator Chemistry」が子供たちに贈ってくれたものも、乳香のようにすばらしく楽しい気持ちと、没薬のごとく苦い気持ち、そして黄金だったような気もします。また、三人の子供たちが鬼やその家族に贈ったものも、そういったものだったんじゃないかと。

他、没薬を贈ったとされるカスパール、だからキャスパーは胆汁よりも苦い薬をかじらなくちゃいけないはめになった、
神秘の象徴とされる乳香を贈ったのはバルタザール、だからジョニーは一番「神秘の実験」に夢中だったのかなとか、
黄金を贈ったメルキオール、だからグウィニーが「賢者の石」で黄金に変えられることを発見したのかな…など、そんなふうにも思いました。

賢者の贈り物 The Gift Of The Magi

「東方の三博士」の贈り物を題材にした有名なお話に、オー・ヘンリー O. Henry の「賢者のおくりもの」があります。
クリスマスのプレゼントに妻は自分の髪の毛を売って夫の時計のために鎖を買い、夫は時計を売って妻のために櫛を買い…お互いのプレゼントは無駄になってしまったけれど、それでも最高にすてきな贈り物…というお話。相手のことを思う気持ちが、なにより大事な点と、お互いが相手に隠し事をするせいでいきちがいが生まれてしまうあたりなどは、「うちの一階〜」にも共通しているような気がします。

「賢者の贈り物」は→青空文庫さんで読むことができます。

われら三人東の王(われらはきたりぬ) We Three Kings of Orient Are

作中でマルコムがいやがらせに歌う曲。賛美歌第2編52番。クリスマスキャロルのひとつ。
東方の三博士がイエス・キリストに「黄金、乳香・没薬 Gold, Frankincense,Myrrh」の三つの贈り物をしたことを歌ったもの。

John Henry Hopkins, Jr. 作詞作曲

We three kings of Orient are
Bearing gifts we traverse afar
Field and fountains, moor and mountains
Following yonder star

※コーラス
  O Star of wonder, star of night
  Star with royal beauty bright
  Westward leading, still proceeding
  Guide us to thy Perfect Light


Born a King on Bethlehem's plain
Gold I bring to crown Him again
King forever, ceasing never
Over us all to reign

※コーラス

Frankincense to offer have I;
Incense owns a Deity nigh;
Prayer and praising, all men raising,
Worship Him, God most high.

※コーラス

Myrrh is mine, its bitter perfume
Breathes a life of gathering gloom;
Sorrowing, sighing, bleeding, dying,
Sealed in the stone cold tomb.

※コーラス

Glorious now behold Him arise
King and God and Sacrifice
Alleluia, Alleluia
Sounds through the earth and sky

※コーラス
■化学セット■
化学セットの下の段に入っていた怪しい薬の名称と効能のまとめ

粉末揚素(ふんまつようそ) Vol. pulv.

効能:粉をつけると、体が軽くなって空を飛ぶことができます。水溶性。つける場所は、体のどこでも可。一部につければ、全体が浮きます。つけすぎと、効果切れに注意。時間がたつと自然に効果が切れます。また水で洗い落として効果を消すこともできます。
Vol. は、volcano(火山)の略?(火山が爆発するように体が上にもちあげられるってことなのかな…と。わかりませんが)
pulv. は、パウダー(powder)のこと。粉末。

粉末収酸(ふんまつしゅうさん) Parv. pulv.

効能:摂取すると体が縮みます。元の大きさに戻りたいときは、粉末膨酸を摂取のこと。
Parv. は、「小さい」の意。

粉末膨酸(ふんまつほうさん) Magn. pulv.

効能:摂取すると体が大きくなります。
Magn. は、「大きい」の意。邦訳でマルコムが「ホウ酸」だと思っていたと述べる場面は、原文では「Magn.」は「magnesium マグネシウム」だと思っていたと述べています。

粉末交素(ふんまつこうそ) Misc. pulv.

効能:同時に摂取したもの同士で体が入れ替わります。
Misc. は、「miscellany ごたまぜ」の意?

動物精(どうぶつせい) Animal Spirits

効能:無機物に魂が宿ります。

虹化剤(こうかざい) Irid. col

効能:体の色が次々と変わります。
Irid. は「虹」「虹彩」「イリジウム iridium」の意。

陰性被素(いんせいひそ) Noct. vest.

効能:一度熱し、冷ました液体に浸かると透明になります。
Noct. は「夜」の意。vest. は衣服をまとったの意?(闇の衣をまとう→見えなくなる、ということかな、と思いますがわかりません)

賢礫晶(けんれきしょう) Philosopher's Stone

効能:金属を黄金に変えることができます。賢者の石。
Philosopherは、錬金術師。
邦訳でグウィニーが「ケンレッショー」と読み間違える場面は、原文では「Peter Fillus」と人名っぽく間違えています。

龍牙塩(りゅうがえん) Dens Drac.

効能:地面にまくと暴走族が生えてきます。
Dens は「歯」。Drac. は、ドラコ、竜のことかと。

スパルトイ Spartoi

邦訳のあとがきによると、龍牙塩のエピソードはギリシャ神話の「スパルトイ」のエピソードを下敷きにしているとのこと。
スパルトイの物語は、テーバイという都市をつくったカドモスにまつわる伝説のひとつで、竜の歯をまいたら戦士がはえてきて、石を投げ込んだらお互いに殺し合いをはじめる話。
鬼が「昔ながらの手がいまだに通用することを祈っている」と言っていたのは、そのことを指すのかと。石のかわりに、缶詰を投げるのですが。
また、暴走族たちが喋る言葉は、原文ですと

みたいな感じで喋ってますが、これは英語の音をギリシャ文字で表記したものとのこと。

メアリー・プレイン Mary Plain

グウィニーの教室の本棚にあったシリーズ。Gwynedd Rae 著。

青ひげ Bluebeard

サリーががいなくなったとき、ジョニーが思い出した「青ひげ」は、シャルル・ペローの童話。「妻殺し」の代名詞として、よく知られています。
青ひげを生やした「青ひげ」は大金持ちですが、青ひげと結婚した女性は、なぜかつぎつぎと姿を消し、行方がわからなくなっています。そんな青ひげの新しい奥方になった女性は、ある日、青ひげから鍵のたばをうけとります。青ひげが出かけているあいだ、どの部屋に入ってもいいが、ただひとつ、地下室の小部屋にだけは入ってはいけないと言われますが、奥方は入ってしまいます。するとそこには、青ひげの先妻たちの死体が、いくつも血まみれで並べられていたのでした。
小部屋に入ったことが青ひげにバレた奥方は、殺されそうになりますが、兄ふたりにたすけられます。

青ひげの物語は→青空文庫さんで読めます。

ぼくとルークの一週間と一日

北欧神話の神や英雄の名前の日本語表記はいくつかありますが、作中に使用されているものを基本的に使用することにします。

火曜日 Tuesday

ミスター・チュウ(Mr Chew)こと、軍神テュールの日。Tiu's day
フェンリル(狼)を拘束するときに、フェンリルの要求に従い、フェンリルの口に片腕を入れ、噛み切られます。フェンリルはロキの息子。

水曜日 Wednesday

ミスター・ウェディング(Mr Wedding)こと、主神オーディンの日。Woden's day
オーディンはユグドラシル(世界樹)に九日間吊りさがり、知識とひきかえに片目を失います。最後の戦い、ラグナロク(神々の黄昏)では、フェンリルに殺されることになっています。
二羽の大ガラスの名前は、フギンとムニン。世界中のニュースをオーディンの元に伝えます。
オーディンは八本の脚をもった馬、スレイプニルに乗っています。スレイプニルはロキが産んだ子供(ロキは男神ですが雌馬に化けてたので…)
『ぼくとルーク〜』では、オーディンは馬のかわりに車に乗って、ヴァルキュリャ(ワルキューレ)のひとりが運転しています。

木曜日 Thursday

雷神トールの日。Thor's day
トールはミョルニル(トールハンマー Thor's Hammer)という槌で雷をおこします。
ロキとはもっとも仲の良い神さま。

金曜日 Friday

女神フレイアの日。
作中では、双子の兄フレイとともに、偽フライ夫妻として登場。
愛と豊穣の神。
また金曜日は、フリッグの日 Frigg's day という解釈もあります。
フレイアとフリッグは別の女神とも、同じ女神ともされます。『ぼくとルーク〜』でも、フレイアがロキをいちばん憎んでいるのはそのためかもしれません。ロキはフリッグの息子バルドルを殺しました。

ロキ Loki

ルークの正体は、いたずら好きな火の神ロキ。
盲目の神、ホズ(ヘズ)をだましてバルドルを殺させ、そのために捕らえられ、地下の牢獄に入れられます。
縛られたロキの上には蛇がおり、その毒液がしたたり落ちます。
それをロキの妻のシギュンが深皿で受け止めていますが、皿がいっぱいになると捨てにいかねばならず、そのあいだは毒がロキの上に落ち、苦痛を与えます。それによって地震がおきるのだといわれています。

ジークフリート Siegfried

ドラゴンの刺青の若者として登場する、ジークフリート Siegfried。(Sigurd シグルト、シグルド、シグルズとも)
『ニーベルンゲンの歌』や、それをもとにしたワーグナーの歌劇『ニーベルングの指輪』が有名。神さまではなくて英雄のひとり。
竜を殺し、鳥の言葉がわかるようになります。
ブリュンヒルトを炎のなかからたすけますが、忘れ薬を飲まされ、ブリュンヒルトのことは忘れて別の女性と結婚します。
『ぼくとルーク〜』の主人公デイヴィッドも、オーディンのカラスと喋れたり、ルークの力をかりたとはいえ炎の壁をのりこえてブリュンヒルトのもとへ行ったりと、英雄の素質が少しあるような気がします。

ブリュンヒルト Brunhilda

ブリュンヒルト(ブリュンヒルド、ブリュンヒルデ)
「最後の戦い」にそなえて、オーディンの命令で優れた戦士をヴァルハラ(天界のオーディンの宮殿)につれていくワルキューレのひとり。
しかしオーディンの命令に逆らい、罰として炎のなかで眠らされ、人間の男と結婚させられる運命となります。

■星空から来た犬■

イェフ Yeff

邦訳のあとがきにもふれられている、イェフの名前のもとになったのではないかと推測されているYeff/Yeth Houndsの伝承ですが、キャサリン・ブリッグズの「妖精事典」をみてみますと、ロバート・ハントの「イングランド西部の伝承奇談 Popular Romances of the West England」に記述があるようです。そちらの本は→こちらのサイトさん(英語)で読めます。
こちらの伝承では、犬は首なし犬で、マビノギオンにでてくるアラウンの犬とはちょっと違うようなのですが。またYeth Hounds、あるいはYell、とあって、Yeffではないので、もしかすると別の伝承かもしれませんけど…

ワイルド・ハント

ワイルド・ハントの伝承は英国の各地にあって、それぞれ微妙に違ってたりもするようです。
犬たちを率いる「あるじ」もいろいろいます。「あるじ」はもともとは北欧神話のオーディンでしたけれど、キリスト教の力が強まるにつれて悪魔とされて、悪魔がひきいているということになったのだ、という説もあるようです。
 ジョーンズ作品
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