リスベート・ツヴェルガー
Lisbeth Zwerger
おやゆびひめ
Thumbeline 1980年
アンデルセンの「おやゆびひめ」にツヴェルガーが絵をつけた絵本。
邦訳も(かど創房 :佐久間彪/訳 1984年)出版されています。英語版の訳はAnthea Bell。
カエルやノネズミのおばさん等、擬人化された動物の絵が印象的で、好きな一冊です。
「おやゆびひめ」の物語は→青空文庫さんで大久保ゆう:訳のものが無料で読めます。
この絵本と細かい部分で文章の違いはあるけれど、ストーリー的にはほぼ同じです。
アンデルセンの原語、デンマーク語のものは→こちらのサイトさんで読めます。
英語版の「アンデルセンコレクション」には、このお話も収録されていますが(※邦訳版には収録されていません)、全部の絵が収録されているわけではなく、横に長い絵は一部切られていたりもします。
あらすじ:こどもの欲しい女の人が、魔法使いのおばあさんからもらった種をまくと、チューリップに似た花が咲き、かわいい女の子が中から出てきます。でも女の子は、親指ほどの大きさしかありません。
ある夜、さらわれてカエルのお嫁さんにされそうになった女の子は、つづいてコガネムシにさらわれます。しかしコガネムシは、まわりが女の子のことを醜いというので、自分も女の子のことが醜く思えてきて、すててしまいます。やがて冬がきて、親切なノネズミのおばさんと一緒に暮らすようになった女の子は、お隣のモグラの家へと通じるトンネルで瀕死のツバメと出会います…
物語の最後でおやゆび姫は、花の妖精の王さまと結婚して妖精の女王になり、Maia(デンマーク語の原文だとMajaという綴り)という名前をもらいます。マイアもしくはマーヤ、ギリシア神話のプレイアデスの七人姉妹の一番上の姉の名前で、プレアデス星団(すばる)のひとつでもあります。ローマ神話だと豊穣の女神の名前。
おやゆび姫が母親のもとから誘拐されることや、モグラの花嫁にされて一生を地下ですごすことになりそうになるというあたりは、ギリシア神話のデメテルとペルセポネの物語を彷彿とさせます。
ツヴェルガーの「クリスマスのまえのばん」などの訳もされている、江國香織さんによる絵本ガイド。 もともとはMOE(雑誌)に掲載されていたエッセイをまとめたもの。ツヴェルガーの「おやゆびひめ」が取り上げられています。 |
七わのからす
The Seven Ravens 1981年
※ドイツ版の表紙です
グリム童話のKHM 25「七わのからす」
Amazonに邦訳の表紙画像がなかったのでドイツ版の画像ですが、この表紙、中の絵の一枚を使用したものなのですが、反転されています。正しい絵…といいますか、実際の中の絵は左右逆です。邦訳版の表紙は別の絵です。冨山房から池田香代子:訳で出ています。
あらすじ:
男の子ばかりが七人も生まれて、女の子がほしいと願っていた夫婦に待望の女の子が授かります。
男の子たちは女の子の洗礼のための水をくみにいくのですが、つぼを井戸のなかに落としてしまいます。父親に怒られると思って帰れずにいると、男の子たちの帰りが遅いのに苛立った父親が、カラスになってしまえと呪いの言葉を吐いてしまいます。すると男の子たちはカラスになって、どこかへ飛びたってしまいました。
やがて成長した女の子は、自分に七人の兄がいたことを知り、兄さんたちの呪いを解こうと旅にでます…
旅にでた女の子は、お日さまやお月さまのもとをたずね、それからお星さまのところへ行きます。
ツヴェルガーの絵本で、お月さまやお星さまなどを擬人化した絵は、「ちいさなヘーヴェルマン」でも堪能できます。そちらと読み比べるのも楽しいです。
賢者のおくりもの
The Gift of The Magi 1981年
オー・ヘンリーの短編「賢者のおくりもの」。邦訳(冨山房 矢川澄子/訳 1983年)も出版されています。
有名なお話なので、題名は知らなくても、内容は知っている方が多いと思います。
美しい夫婦愛と、「ほんとうの贈り物とは何か」ということを考えさせられる物語。クリスマスのプレゼントに贈りたい一冊。
あかずきん
Rotkappchen 1983年
ドイツ語タイトルの「Rotkappchen」は、Aの上に点が二つつきます。(表記できないため)
この絵本、とにかく、オオカミがかわいい。
特に、おばあさんの服をきて、おばあさんになりすます際のオオカミが、なんていうか、「こんなもんか、どうだ?」みたいにポーズをとってるところがユーモラスで、チャーミング。
また、主役の「あかずきんちゃん」の「ずきん」が、おなじみの防災頭巾のようなものではなくて、フツーの、赤い帽子、といった感じなのも、新鮮でした。
わがままな大男
The Selfish Giant 1984年
あらすじ:
庭に勝手に入り込んで遊ぶ子供たちを追い出した大男。けれども、子供たちのいなくなった庭には、春がきません。ずうっと冬に閉ざされた庭。大男は、自分の庭に、なぜ春がこないのか不思議でなりません。そんなある日、子供たちが、壁の小さな穴をくぐりぬけて、こっそり庭にやってきました。大男は小さな男の子を抱きあげて、木にのぼらせてあげます。お礼に男の子はキスをくれました。
それから大男は、壁をこわし庭を開放し、子供たちといっしょに遊ぶようになりました。春もやってきました。
けれども、あの小さな男の子は遊びにきてくれません。大男は、あの男の子のことをとても好きになったのに、どこの誰だか、みんな知らないというのです…。
短編集「The Happy Prince and Other Tales(幸福な王子)」のなかの一篇です。
また、邦訳は→青空文庫さんで読めます。
国をすくった子どもたち
The Deliverers of Their Country 1985年
The papers would not call them dragons, because of course, no one believes in dragons nowadays -
『新聞はもちろん、それを「りゅう」とはよびませんでした。なぜなら、今では「りゅう」などをしんじる人はいないからです』(引用)
イーデス・ネズビット(Edith Nesbit、この本の表記ではイディス・ネズビット)の、「国をすくった子どもたち」。邦訳も(太平社 猪熊葉子/訳 1987年)出ています。文章の量の関係か、縦に長い、ちょっと変わった大きさの本です。
この物語、ある日、とつぜん、竜が大量発生して、町は大混乱する…というストーリー。
新聞などは、竜のことをなかなか「dragons」と認めず、「winged lizards(翼つきとかげ)」と呼びますが、
竜=害獣、というか、もうほとんど「害虫」扱いです。
ユーモアや、けっこう皮肉も多いのですが、毒はさほどありません。
ただ、「竜=神聖で気高い生物」と考えていると、この物語は、ちょっと抵抗があるかもしれません。私は、この物語に登場するのは、「竜」ではなくて、ほんとうに「winged
lizards」だと思いました。
この物語はきっと、
「竜」が「とかげ」でしかない世界では、国をすくったところで、英雄にもなれやしない。つまんないよね、つまんない時代だよね、
ということが、いちばん言いたいのではと、思います。
英語の原文は→Project Gutenberg(英語)で読めます。 「The Book of Dragons」のなかの三番目のお話です。 イラストつき。 |
あらすじ:
幽霊の出る英国の屋敷を、アメリカ人の金持ちが購入し、家族で住みはじめます。幽霊はアメリカ人を追い出そうと、あの手この手で怖がらせますが、怖がられるどころか、バカにされる始末。
そんなある日、幽霊は、家族のなかの、心やさしく、かわいらしい少女と言葉をかわし、少女の「愛」によって、自分は救われるかもしれないと考え、少女をさらいます…。
という、非常に道徳的なお話。罪人の更生には、石をなげるのではなく、「愛」と「許し」が必要、というようなことが書かれているような気がします。
絵本としては、文章、やや多めですが、幽霊屋敷ものとしては、オーソドックスなお話で、わかりやすいので、なんとか読めたような気がします。ところどころユーモアがありますし、基本的に、怖い話ではないです。
ツヴェルガーの描く幽霊の絵も、哀れなんだけれども、どこかユーモラス。
絵を眺めているだけでも楽しい一冊です。
英語の原文は→Project Gutenberg(英語)で読めます。 イラストつき。 |
英国の文豪、チャールズ・ディケンズ Charles Dickens の「クリスマス・キャロル Christmas Carol 」にリスベート・ツヴェルガーが絵をつけた絵本。
「クリスマス・キャロル」の全文が収録されていますので、文章は、かなり多いです。
邦訳は太平社より吉田新一:訳で出ています。
スクルージ老人は、商売熱心で、じゅうぶんといえるだけのお金をもっていますが、ケチで、それをまったく使おうとせず、使用人にも、ろくな給料をはらいません。たった一日の、クリスマスの休日でさえ、働きもしないのに給料だけもらうなんて、泥棒と同じだ、と言い放ちますし、どんなに寒くても、暖をとるための石炭でさえ、まんぞくに使わせてくれないのです。
また、貧しい人々のための募金に訪れた紳士に対しては、自分はたっぷり税金をおさめていて、それが国の福祉に使われているし、そもそも、余計な人口など減ったほうがいいんじゃないか、と言って、びた一文寄付しようとしません。
甥がやってきて、一緒にクリスマスを祝おうと、家に招待してくれますが、「ばかばかしい」と言って、おいかえしてしまいます。スクルージにとって、金儲けができるわけでもないクリスマスは、まったく無意味なものなのです。
そんなスクルージのもとに、かつての事業仲間だったマーレイの亡霊が、あらわれます。クリスマスイブのことでした。
マーレイの亡霊は、生前の行いのために、重い鎖でつながれていました。そしてスクルージの鎖は、自分よりも長生きしているぶん、より長く重いものになっているだろう、といいます。
マーレイはスクルージに忠告するために来たのでした。今ならまだまにあう、と。
そしてスクルージのもとに、三人の精霊があらわれます。三人はそれぞれ、過去、現在、未来のクリスマスの光景を、スクルージに見せるのでした…。
有名なお話ですし、ご存知の方のほうが多いかと思います。
老若男女を問わず、楽しめるお話ですが、大人になればなるほど、胸に深く迫るものがあるのでは、という気がします。
自分自身はもちろん、みんなが楽しいクリスマスをすごして、幸せな思い出をつくってほしい。そのために自分にできることがあるのなら、できるかぎりのことはしよう、といったような、優しい気持ちになれるお話です。
家族ですごすクリスマスの大切さ、といったものにも、気づかせてくれるような本。
ツヴェルガーが絵本作家になるきっかけとなった、アーサー・ラッカムも、クリスマス・キャロルを描いています。 →Project Gutenberg(英語)で文章とイラストともに無料で読むことができます(画像は少々悪いです)。 また邦訳は→青空文庫さんで森田草平:訳を無料で読むことができます。 |
イソップ物語の絵本、「イソップ12の物語」
邦訳は太平社から吉田新一:訳ででています。
収録されてる12の物語は
- 町のネズミといなかのネズミ
- 乳しぼりの娘とミルクのバケツ
- 人間と森の神サテュロス
- 羊飼いの少年とオオカミ
- ウサギとカエル
- サルとラクダ
- キツネとぶどう
- ウサギとカメ
- キツネとカラス
- イヌとブタ
- 月の親子
- ロバとイヌ
ウサギとカメのかけっこの話や、オオカミがきたぞ〜と嘘をつくオオカミ少年の話、田舎のネズミが町へ行って、やっぱり田舎がいいやと思う「町のネズミといなかのネズミ」など、有名でよく知られた話のほか、あまり知られていないような話もあって、楽しめます。
イソップ物語はアーサー・ラッカムも挿絵を描いたものがあります。 →Project Gutenbergで読むことができます(英語) 日本語でイソップ物語は→こちらのサイトさんなどで読めます。 |