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空飛び猫
Catwings

空飛び猫 帰ってきた空飛び猫
素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち
空を駆けるジェーン

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This is not a good place to grow up in, and you have wings to fly from it.
ここは子供たちが成長するのにふさわしい場所ではありません。そしてお前たちはここから飛んで出ていくためにその翼を授かったのです。(引用)

S.D.シンドラー S.D.Schindler 絵、アーシュラ・K.ル=グウィン文
「空飛び猫」 原題「Catwings」1988年
40ページくらいの絵本ですが、文章もそれなりにあります。
邦訳は村上春樹:訳で講談社からでており、文庫(挿絵はカラー)にもなっています。訳注として、ちょっとした英語の解説なんかも載っています。

ル=グウィンといえばゲド戦記だとか、ファンタジーやSF作家として有名ですが、この物語は舞台は異世界ではなく、この世界。翼をもって生まれたということ以外は、魔法がつかえるわけでもない、ふつうの猫たちの物語です。
猫たちの名前は、セルマ、ロジャー、ジェームズ、ハリエット。
お母さん猫のジェーン・タビー(Tabby トラ猫)は翼をもたない猫で、どうしてこどもたちが翼をもって生まれてきたのかはわかりません。もしかしたらこどもたちが生まれるまえに、空をとぶ夢をみたせいかもしれません。街には危険がいっぱいです。子猫たちが自分のちからで飛べるようになったとき、お母さんは子猫たちに、この街から飛び立つようにいいます。
おまえたちの翼はそのためにあるのだと…

この本は原書と邦訳と両方読みました。邦訳の訳注でもちょっと触れられていた、
human being(人間)を human bean(豆)と子猫が言い間違える箇所。
話の内容とはあまり関係ないのですが、ロアルド・ダールの「オ・ヤサシ巨人BFG」でも同じようなネタが出てきたっけと思いました。ふとんがふっとんだ並にポピュラーなギャグなのかな…。

比較的低年齢層向けのおはなしですが、猫が翼をもったことに対して鳥たちが「不公平だ!」と大騒ぎするのを、ネズミが
You've always had wings. Now they do. What's unfair about that?
あんたがたは前からずっと翼を持っておった。そして今ではあの猫らも翼を持っておる。それのいったいどこが不公平なんですかな?(引用)
なかなか冷静なツッコミをいれていたりと、人間社会の風刺のようなものがさりげなく入っていたり、けっしてかわいらしいだけのおはなしではなかったりします。でも暗かったり堅苦しいということはなく、基本はかわいらしい空を飛ぶ、ふわふわの子猫たちのおはなしです。
対象年齢 4-8 SSS: YL 4 2,912語
(2008年4月)
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And families do get separated in bad times. But they find each other again.
なにか悪いことが起きるときにかぎって、家族が離れ離れになっているものなのよ。でもいつかはまた巡り合える(引用)

S.D.シンドラー絵、アーシュラ・K.ル=グウィン文
空飛び猫シリーズ第二巻「帰ってきた空飛び猫 Catwings Return」1989年

街から飛び立ち、新しい暮らしを手に入れた猫たちですが、ジェームズとハリエットは一度お母さんに会いに街にもどることを決意します。
ところが街のようすはすっかり変わっていて、お母さんも見つかりません。
かわりに見つけたのは、背中に翼をはやした黒い子猫でした…

空飛び猫たちの里帰りのおはなし。といっても帰るのはジェームズとハリエットの二匹で、セルマとロジャーはお留守番です。
前作ではまだ子猫だった猫たちは、すっかり成猫に。いちばんちびだったハリエットも、今作ではお姉さんぶりを発揮します。

少し難しい単語として Homing Instinct(帰巣本能) が出てくるのですけれど、生まれた街に戻るときには帰巣本能がちょっとあやふやで頼りにならなかったのに、街からまた戻るときにはきちんと働くあたりが読みどころかなあと思いました。猫たちにとってのホームは、もう街ではないのですね。
夕暮れの金色の空のなか、旅立った者をじっと待つ猫たちと、帰ってくる猫たちの描写がきれいだなと思いました。

対象年齢 4-8 SSS: YL 3.5 4,979語
(2008年4月)
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S.D.シンドラー絵、アーシュラ・K.ル=グウィン文
空飛び猫シリーズ第三巻「素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち Wonderful Alexander and the Catwings」1994年

今回の主役は、こわいもの知らずの、やんちゃな子猫のアレキサンダー。お金持ちの家で、ぬくぬく育った、翼をもたない普通の子猫。なにかすばらしいことをしようと、外の世界へ出かけます。
けれど家のなかと違って、外の世界は危険がいっぱいでした。
トラックに轢かれそうになったり、犬に追われたり。
木に登ったはいいけれど降りられなくなって、飢えと寒さにこごえながら一晩をすごし、みじめな気持ちになります。
そんなアレキサンダーをたすけてくれたのは、黒い翼を持った猫、ジェーンでした…

前作ではジェームズとハリエットにたすけられたジェーンが、今作ではアレキサンダーをたすけます。
アレキサンダーの追い詰められた状況は、前作のジェーンの境遇と少し似ています。そしてジェーンはそのときのトラウマがもとで、いまだに ”ME” と ”HATE” の二言しかしゃべることができません。

大事なところとしては、ジェーンがアレキサンダーをたすける方法が、抱えて飛んでおろしてあげるのではなく、木からおりる道を教えてあげる点かなと思いました。アレキサンダーは自分で木からおりる力はあるのに、その方法がわからないのと、恐怖心からできなかっただけなのです。
そしてそれは、ジェーンも同じ。
しゃべる能力はあるのに、ただ恐怖心からできずにいるのです。

自分はちっとも"Wonderful"なんかじゃないと思うようになったアレキサンダーですが、ただの猫の自分でも、何かジェーンにしてあげたいと考えるようになります。
そうして思いついたのは…?

空を飛べるのは素晴らしいことだけれど、飛べない猫でもできることはたくさんあるんですね。

対象年齢 4-8 SSS: YL 3.5 4,155語
(2008年4月)
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空を駆けるジェーン−空飛び猫物語
Jane on Her Own : A Catwings Tale

S.D.シンドラー絵、アーシュラ・K.ル=グウィン文
空飛び猫シリーズ第四巻「空を駆けるジェーン−空飛び猫物語 Jane on Her Own : A Catwings Tale」1999年
いまのところシリーズ最終巻となっています。
1巻と2巻は邦訳も読んだのですけど、3巻とこの巻は原書だけ読みました。

農場での変わらない毎日の平和な暮らしに飽きたジェーンは、刺激と交流を求めて都会へと羽ばたきます。
そうしてひとりの男性の家へと、開いていた窓から飛び込みました。
男の人はジェーンのことをとてもかわいがってくれました。きれいなベッドに、おいしい食べ物。でも、首に巻かれた紫のリボンは、ジェーンを息苦しくさせる気がしました。それに、男の人はジェーンを外に出してくれません。窓はいつもかたく閉じられ、移動するときは猫用のキャリーで、しかもテレビ出演のためです。
スタジオでは、何度も何度も同じ、つまらない芸をさせられます。
農場での暮らしのほうが、よっぽど楽しかったと思いはじめたジェーンは…

ジェーンを閉じ込めて、新聞やテレビに出演させてお金をもうける男の人の名前は出てこず、ただ"Poppa パパ(とうさん)"とだけ表記されます。
そうして彼はジェーンのことは、ふたりのときは"Baby"と呼び、カメラマンや記者などがいる場所では"Miss Mystery"と呼びます。そのどちらも名前とは言いがたいです。
このあたりがふたりの関係を象徴しているようでおもしろいなあと思いました。というのも、このシリーズで空飛び猫たちにとって信頼できる人物は、猫たちの名前を、不思議と正しく当てることができるからです。

ゲド戦記の作者だから、名前に関するあれやこれやは意図的だろうなと思います。
Poppaとジェーンは、互いに真実の名(笑)を知らない、あるいは互いに名前なんかどうでもいいと思っている関係ですね。名前はその人や、そのものの本質であると考えると、お互いに本質、中身をみていないことになります。
Poppaはジェーンの外見、すがたかたちだけに価値を置いています。ジェーンはジェーンで、Poppaの本質、本当の優しさではない優しさ、をなかなか見抜けずにいます。贅沢はさせてくれるけれど自由にはさせてくれない、それこそ猫かわいがり状態だけれど本当の意味では愛していない…。
Poppaはジェーンが求めていた"friend"とは、ちょっと違っていたようです。

それにしても冒頭の猫たちの怠けっぷりがうらやましい…

対象年齢 4-8 SSS: YL 3.5 3,217語
(2008年4月)
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空飛び猫 四冊セット(洋書)
Catwings Collection

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